鉄道会社のあきれた客あしらい

JR西日本福知山線で起きた大惨事はまことに痛ましい。
亡くなられた方々はさぞかし無念だったろう。お怪我をされた方々やご遺族の方々のお気持ちは察するに余りある。不幸にして亡くなられた方々には心から哀悼しご冥福をお祈りしたい。それにしても事故直後からとった会社側の対応にはあきれてモノが言えないという方が多いのではなかろうか。最近テレビニュースを見ていたら、地元の方々が怒りを満面に表してこんなコメントをしていた。(05/05・19時NHKニュース)
曰く「JRは常識はずれもいいとこだ!」「もうムチャクチャですわ!」と…
こうなると最低の評価であり、企業としての社会的責任もへったくれもない。

一連の報道を聞く限り、大きな組織に何か問題や欠陥があったのではないかと思わざるを得ない。これは東西JR共通の大問題だと思う。
私はJRに対して特別な気持ちや恨みがあるわけではないが、今回の事件を契機に数年前に私の身に降りかかってきた不愉快極まりない出来事を思い出した。
民鉄ではありえない顧客無視の思い上がったお役所体質は今も変わっていない。

この話は私が東京の電車内で実際に体験したことだ。3年ほど前の話だが、座っていたベンチシート(長いす)の客席が突然脱落し、私もろとも、前座っていた男性の脛の上に落下した。相手は脛に傷を受け、非常に痛がったが、私も驚いた。
このとき私はJRの職員から犯人扱いされ、新宿駅舎に連行され、まことに驚くべき仕打ちを受けた。今回はこの事実を公開する。怒りは今も収まっていない。

■乗った電車は中央線立川から新宿まで
相手の怪我の程度は幸い軽かったが、この時のJR車掌や駅の助役と称する職員、お客様相談所、本社旅客課長等のとった態度は実に驚くべきものだった。高い運賃を取りながら「乗せてやる」式の国鉄時代と何等変わらず、これが民営化された鉄道会社のとる顧客対応なのかとあきれると共に強い怒りを禁じえなかった。
これは総て事実だ。記録は今も総て手元にある。

ある晩春の日曜日の午後5時半ごろだ。当時私は定年退社し某損害保険会社の嘱託として土日、祝祭日に立川にあるコールセンターで休日の事故相談業務を担当していた。
朝9時から午後5時までの執務を終え立川から新宿行きの休日運行の快速電車に乗った。この列車は新宿までノンストップだった。始発駅は覚えていないが車両の型式は一昔前のタイプでありシートは固定式のベンチシートで客は4名が対面して座る形だった。前の人との距離が短く足が長い人だとひざが前の人の足に触れるので窮屈だった。幸い車両は最後尾で比較的すいており対面するボックスには一人ずつ座っていた。
当該車両のイメージ
一日の仕事を終え疲れたのか立川を発車するとすぐに眠くなりウトウトしていた。10分も走ったろ、突然ガタンという音と共に私は座っていたベンチごと床に落下した。
前の席には登山かハイキング帰りらしい屈強そうな人物が座り、やはり眠っていた。その人の投げ出した足の上にベンチシートもろとも落下したから大変だ。彼は痛さのあまりしゃがんで身動きもせず顔は苦痛でゆがんでいた。
直ちに車掌を呼んだ。彼は30前後の若い職員だったが、私に対してなじるような態度で「一体何をしでかしたのか!!」と大声で詰問した。私の釈明に対して彼は「あんたがシートに浅く腰掛けたから、イスもろとも落下したのだ!…」と、車掌からまるで犯人扱いされたのだ。
私はビックリした。眠っていたらシートごと床に落下しただけなのだ。まったく何もしていないのだ。乗客が客席に浅くかけようが深く腰掛けようが全く自由だ。そんなことを指摘される筋合いは全くない。客席の上に立ち上がったりすれば当方にミスがあるかもしれないが座り方で落下するようなら整備不良であり、施設管理上の責任は総て運行管理者側にあるはずだ。

私は直ちに反論した。「客が普通に腰掛けていたら落下したのだから私に落ち度は無い。鉄道事業者として客の安全を守る立場から旅客運送法に違反しているのではないか…」と
彼は急に態度を変え、シートをセットし直し、痛がっている乗客の様子を尋ねたうえ新宿駅に連絡をとると約束した。
被害者は山男らしく登山靴をはき厚手の毛糸の永い靴下を履いていたが傷の様子を見ると当たった脛のところが赤くすりむけていた。出血は無く骨にも異常はなさそうだった。それを見て私は一安心したが大変痛そうだった。

新宿駅でヒドイ仕打ちを受けた
駅に到着すると2名のベテランらしい職員が待ち受けていた。その内の一人は「自分は助役だ…」と尊大な態度でいったが名刺等は差し出さなかった。ホームに立ったまま事故の状況等を再度しつっこく聴取された。
私の説明に対しては「休日なので多分、立川到着以前に子供がシートの上で飛んだり跳ねたりして遊び、ずれていたのに貴方が気がつかず、走行中の振動で落下したのだろう…」とのこと。それでは私には責任はまったく無いはずだ。
客がイスに座る際にズレを確かめる責任など一切無いし、安全だという前提で座るのだ。

一方被害者の山男は執拗に苦情を申し立てていた。彼の気持ちはよく理解できた。山登りに疲れ心地よいまどろみの最中に突然大きなベンチシートと人間が足の上に落ちてきて痛い目にあったのだから…彼は治療費のことを心配し主張し続けていた。当然のことだ。30分近くホームの上で話合い結局治療のためにホーム近くの駅舎に行くことになったので、関係が無い私は「家に帰りたい」旨申し出た。ところが…その助役なる職員は「貴方も同道してもらう」といい有無を言わさずホームのはずれにある駅舎に連れて行かれたのだ。拒否すればよかったのかも知れなかったが出来なかった。2名の職員らは非常に威圧的で逆らうことが出来なかった。
ここでまず被害者の傷の手当をするという。彼は病院での手当を主張していたが受け入れられず、備付の救急箱のお世話になることになった。

一体私は何のためにこんな所へ連れて行かれたのか理解できなかった。
私はこのころ心臓疾患で体調を悪くしていたこともあり、再度「自宅に帰りたい」と申し出た。助役と称する男は私をジロリとにらみメモ用紙を取り出し「ここに住所氏名電話番号を書け」とのこと。私は気分が悪くなり、それにサインしやっと放免された。
最初から最後まで名前も名乗らずサインさせた理由も一切説明しなかったのだ。拘束されてからすでに1時間ほどが過ぎていた。何の罪も無い乗客に対する態度とは到底思えない酷い仕打ちだった。
こんなことは現在警察でも決して行わない。現行犯以外は同行は任意だし、わけのわからない書類に説明も無くサインさせたりはしない。
なぜきっぱりと拒否しなかったのか、自己嫌悪と悔しさで一杯だった。非常に惨めな気持ちで、重い足を引きずるようにして帰宅した。

◆お客様相談室の対応
どうしても腹の虫が収まらず、家人や知り合いに話したところ異口同音に「そんなバカなことがあるか…」という。HPで新宿駅に「お客様相談センター」があることを知り、電話してみた。
担当者は私の話を聞いたうえ「申し訳ありません」と繰り返したが、駅舎に連れ込んだりサインさせたことについては「貴方に対してヘンな事するつもりはありませんでした…」と言い訳をした。これでは説明になっていない。事実「ヘンなこと」をしてきたではないか。私は追及をあきらめメールで事の次第をJRに通知し釈明を求めた。なしのつぶてだったので駅長と東日本鉄道株式会社の社長宛に詳細な手紙を出した。

◆鉄道会社側の言い分
1ヶ月も過ぎ忘れたころになってやっと返事が来た。
本社の旅客課長であり責任者だと書いてあった。手紙によると事実関係を調査していたため返事が遅れたことを詫びた上おおよそ以下のように記されていた。
①車掌のとった態度は言語道断で真に遺憾、総て本人が認めた。本人に厳重注意した。
②しかし、車両を精査したが構造や整備についての瑕疵や問題点は見当たらなかった。鉄道事業者として安全運行管理上の問題は無いと考えている。
新宿駅の対応は真に申し訳なかったが、対応職員に問いただしたところ、
ホームでの立ち話は危険なので駅舎にご案内した。また、紙に住所氏名をサインいただいたのは、貴方様にお怪我が生じた場合を考慮したものだ… 等々

私はこれを読んで「ウソをつけ!いい加減にしろ!」と怒鳴りたい気持ちだった。これはまったく事実と異なるのだ。まるで私がデタラメを云ったかのごとくだったので名誉のため直ちに文書で反論した。
車掌に対する処分は当然だが新宿駅の助役らへの対応はまったく承服できないと。
理由は事実認識がまったく異なるからだ。すなわちホームが危険なら何故直ちに駅舎へ案内しなかったのか? 長時間ホームの端で立ったままこと細かく事情を聞かれ、被害者の治療の方法について話し合った末、一定の方向が出たので帰ろうと思ったら連行されたのだ。また、私は床にイスごと落下したが特に怪我は無かったので、そのことに関して一言も触れていなかったのだ。助役らの言い分はまったくの嘘っぱちである…
事実を確かめたかったら被害者本人に直接聞いてみたらどうか?
私は民間会社の事故相談員をしているがこんなでたらめな顧客対応は通常では考えられない。到底承服し難いので別途の方法を講ずるつもりだ…と。
それに対する返事はなかった。私が明言した「別途の方法」とは何らかの方法で事実を公開し世に問うことだった。そのタイミングを探っていたがやっとめぐってきたのだ。

◆これが「新国鉄」の客あしらい
以上述べたことは総て事実だ。誇張や脚色は一切ない。これをどのようにご判断されるかは読者に任せたい。
この組織は顧客よりも自社の職員の保身や保護のほうがはるかに大切なのだ。このことを私は身をもって実感した。
これは今回JR西日本が引起した大惨事の事後対応を見ても当てはまる。当初、隠蔽したり他に責任を転嫁するような態度が報道されたが、関係者らのあまりにも非常識な振舞いの数々に、国民から非難の声がごうごうと上がっている。
このような企業風土は他のJR各社にも残っていることは容易に想像できる。
いずれの場合でもJRの職員たちは大事な判断の場面で組織を先に立てる傾向が明らかだ。無責任体制が蔓延し、乗客よりも職場や組織を重視するようなJRの体質であることは間違いないようだ。営利を追求し良好な労使関係を保つことは必要なことであり否定はしないが顧客に視点を当てた「安全を一時もおろそかにしない」というのは鉄道事業者として第一に求められることだと思う。
今度の大惨事が2度と繰り返されることがないように心から祈り、この拙文を閉じることにする。(05/05/)